今月の法話

正善寺だより「聞・聞・聞」第90号より

ただ一言 南無阿弥陀仏

さる日私は糖尿病悪化のため昭和病院へ入院し、右足の指先切断のため手術台にのった時、色々な悩みをもったが、浄土真宗の教えの基本である、おまかせよりないと決心がつくとともに、「力なくして終わる時、彼の土へはまいるべきなり」という親鸞聖人の言葉が思いうかんだ。そして同時に、中学時代にきいたある布教師の説教が思い出された。それは次のようなものであった。

ある寺院に本願寺の御講師が説教に来寺された。その案内が出されると、その村の人は申すに及ばず、近郷から大勢の参詣人が早朝よりつめかけ、どんなありがたいお説教がいただけるかと御講師のお出ましを待ちかねていた。

定刻になり、型の如く勤行が過ぎ、皆が固唾をのむ内に、御講師は高座に登られ大声で、「皆々様早朝より煩悩に暇をもらって、ようこそ御参詣下さいました。さて阿弥陀様の御本願と申すは、ナムアミダブツと一声となえた者は地獄へは落とさんぞよのお約束ですぞ」と。

そしてこの一言で高座を下りようとなさると、一人の青年が立ち上がり御講師の袖をにぎりしめ、「わかりました」と大声をあげて泣きさけびました。お部屋にお帰りの御講師は、「私は何回も説教を致しましたが、涙と共に領解を聞いたのは初めてです。どうかあの青年をここへ呼んでください』といわれ、これを聞いた住職や総代は驚いた。礼儀知らずの青年のこと、もしも御講師に対し無礼があってはと申し上げても、ぜひに会いたいといわれるので、やむなく青年をつれて来た。

挨拶もせず無造作に座った青年に、
「あなたは先ほどわかりましたと言ったが、どうわかったのか教えて下さい」
と御講師がたずねると、青年は、
「おら、バカ初という名で皆に呼ばれ、父じゃも兄じゃもいつもひどい目に合わせます。ある日柿の木に登って柿を食べている所へ、父じゃ兄じゃが帰って来て、いきなりおらをさかさに木につり下げ、『お前のために自分らは世間に気がねせねばならぬ』とぶたれました。あまりの痛さに母じゃに助けを求めたが、戸をあけただけで助けてくれなかった。
しばらくして目をあけた時、母じゃが心配そうに、『初や、人間でさえ馬鹿にされたばかりに、父や兄に邪見にされ痛い目にあうが、地獄へ行けばもっと恐ろしい目にあわねばならぬ』といった。おらはどうしたら地獄へ行かずにすむかと母じゃに聞いたら、『どこへでもお説教を聞きに行きなさい』と言われ、どんな所へもかかさず行ったが、どの坊さんの話もむつかしくてさっぱりわからなかったが、今日は唯一言ナムアミダブツととなえた者は地獄へはおとさん、と聞いてわかりました。」
と言いました。

ああ、念仏の心以外に救われる道はない。凡夫の心はあてにはならないと思ったとたん、深い眠りに落ち、幸い手術は無事終了した。

仏様のイメージ

 

「とっておきの法話10」より

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